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2013年2月28日木曜日

「国立温泉 湯楽の里」で冬の日光浴


 冬は寒いのでバイクに乗らない。しかし、たまには乗らないとバッテリーが上がってしまうので、晴れた日曜日、温泉目指してバイクを走らせることにした。しかし、実際に走り出してみると、空は青空が広がっているのに強風だ。ちょっと早い春一番みたい。これは近場で済ました方がよさそうだ。
 しばらく走って取り出したのが、iPhoneアプリの「温泉天国」。これが、とても便利で、自分の現在位置から近場の温泉をサーチしてくれる。口コミなどをざっと見て、さっそく最寄りの温泉施設に行くことにした。
 それが、「国立温泉 湯楽の里」。
 若干、道を間違え、やっと見つけたと思ったら、これが以前に行ったことのある温泉施設だった。記憶はおぼろげだけど、たしか山梨にツーリングに行った帰りに、寒さのあまり身体が凍え、とにかくどこでもいいから熱い湯につかりたいと駆け込んだ覚えがある。ちょうど国道20号(日野バイパス)沿いにあり、目に飛び込んだのだろう。しかし、まったく温泉についての記憶がない。ツーリングに行くと、必ずどこかで温泉に寄るので記憶が曖昧になっているのかもしれないし、寒くてそれどころじゃなかったのかもしれない。だけど、隣に併設した郊外型のホームセンターは覚えていた。風呂上りにつらつら広大な店内を見て回ったのが面白かったのだ。普段は見慣れない業務用の工具や日用雑貨が新鮮で、なかなか楽しい時間だった。
 また風呂上りにホームセンターに寄ろうと考えながら、いざ、湯楽の里へ。
 真新しい靴箱、居酒屋チェーンのように若い女の子がいる受付など、最近人気の温泉施設といった雰囲気。入ったところに和風レストランがあるのだが、その光景を見て、思わず溜め息がもれた。やっぱり……。騒々しいほどの喧騒が溢れ、かなり広い客席がほぼ埋まっている。昼時だったので、とりあえず何か食べたいと思い、どうにか一つだけ空いていた窓際の席を見つけた。ぐるりと周りを見渡すと、家族連れや老人の仲間同士、一人で生ビールを飲んでいる男性、本当にいろんな人がいる。窓の景色は、開放的で遠くまで見渡せる。東京都市部の外れまで来ると、なだらかな山が見えるのだ。その手前には多摩川が流れいる。河原にはグラウンドがあって少年たちが野球をしていた。日曜昼の牧歌的風景。喧騒を耳に入れなければ、どこか地方の温泉に来ているような風景だ。この眺めは、かなりいい。静かならもっといい。

 そして風呂である。天井が高くてなかなか開放的。設備も清潔感がある。この温泉の露天風呂から、富士山が見えるというのがウリで、さっそく期待して露天へ向かった。
 冷たい風から逃げるようにまずは色のない方の湯へ。目を閉じると、心地よい音色が響いてくる。ちょうど横に水琴窟という獅子おどしと石による天然楽器があって、それは、石をくりぬいた空間に、水滴が落ちて反響する音だったのだ。これが実に温泉に合う。坂本龍一は、自然が奏でる音はどんな音でも耳障りでないといったことを話していたが、何の意図もないランダムな水滴の音が心地よく、それでいて、ときに楽曲のように聴こえてくる。ほどよい湯温もあって、軽くのぼせそうな時間、湯につかっていた。寝てしまいそう。
 ふと気づけば、湯船はアトラクションか何かのように人でぎっしりであった。これはたまらんと、隣の茶色い湯船に向かう。しかし、こちらも老人でいっぱい。端の方がようやく空き、さっそく湯につかると、こちらが源泉らしく、湯温はほどよく熱く、じわじわと効いてくる。
 これを求めていたのだ。ツーリングに行くと、必ず身体が冷える。なんでも10キロ出すごとに、体感温度は1度下がるらしい。つまり、100キロで走れば、10度下がるということだ。気温20度の陽気であっても、バイク乗りにとっては冬のような10度の中を走っているということ。逆を言うと、35度の気温だと、25度ということになるから、実に爽やかで快適。話は脱線したが、寒さにぶるぶるとなったときに入る温泉は格別。
 耐えて耐えて快楽、耐えて耐えて快楽……なのであった。
 この湯船がよくできていて、前の方に行くと、掘りごたつのようになっていて、手すりにもたれながら足をぶらんとすることが出来る。温泉は3~5分入っては、身体を冷まし、というのを何度か繰り返すことがいいとされている。実際、身体のすっきり感からして、本当だと思う。そうして湯を身体に浸透させ、そろそろ出ようかなと思いはじめた頃、そばの老人の会話が聴こえてきた。
「ほら、あれが富士山だよ」「ああ、ほんとだ」
 その日は青空が広がっていたが、地平線は薄い雲に覆われていた。残念だけれど、今日は富士山は見えないと思っていたのだが、湯から上がり、立ち上がってみると、雲を透かしてうっすらと幻のような富士山の姿が見えた。
 二度温泉に入って、次はサウナというのがいつものパターン。無性にサウナが好きなのだ。若い頃は、まったくその気持ちよさがわからなかったが、お酒を呑むようになってから、デトックスの快楽を如実に感じるようになった。二日酔いの朝は、とにかくサウナである。
 当然のことながら、こちらも人でいっぱい。肌が触れそうなほどで、一人出たら一人入るといった感じで、空きを待っているような状態だった。たとえそうであっても、目を閉じれば一人になれる。
 10分サウナに入り、水風呂へ。これもさっきのツーリングと温泉の関係に似ていて、耐えて耐えて快楽、耐えて耐えて快楽。違いは、熱いところからひんやりしたところへ、である。
 サウナと水風呂のセッションを三度繰り返し、最後のシメは、再び温泉だ。たっぷりとつかってから、アジア風の寝椅子に横になる。身体がほてっていて、ぜんぜん寒くない。冬の冷たい風が、南国の涼風のよう。太陽の熱がじわじわと感じられてくる。
 露天風呂に行きたいと思った理由として、太陽の光を浴びたかった。冬は室内にこもりがちになる。日照時間も短い。人間の身体は日の光を浴びると、セロトニンが作り出されるそうだ。これが欠乏すると、睡眠や体温調整のリズムが崩れたり、精神が不安定になったりするらしい。夜の商売の女の子に精神不安定な人が多いけれど、昼夜逆転して太陽の光を浴びてないことも要因の一つなのではないかと僕は思っている。
 裸でたっぷり太陽の光を浴びることができた。そういう意味でも、湯楽の里の露天はなかなかだ。
 すでに夕刻にさしかかっていて、帰りはさらに人でごった返していた。受付も行列ができて、順番待ち。早く静かなところへ行きたい気分になる。結局のところ、ロケーション、設備、清潔感、露天の開放感など、すべてにおいて湯楽の里はよくできている。しかも、国道20号沿いで、アクセスもいい。だから多くの人がやってくるのだ。寒い日なら、みんな考えることは同じ。温泉であったまって、のんびりしたい。人もまばらで静かなら本当に申し分ないのだけれど、これが東京の矛盾した暮らしにくさだと思う。本当に田舎だったら、こうした設備の整った温泉も期待できないだろうし。
 外に出て一服。空は赤く染まっていて、さっきはうっすらとしか見えなかった富士山が堂々と姿を現していた。それだけでも来てよかったなと思えた。
 帰りは予定どおり、ホームセンターをそぞろ歩き、食料とビールを買って帰った。近所のスーパーよりも安くて、ちょっと得した気分。



■国立温泉 湯楽の里
東京都国立市谷保3143-1 「フレスポ国立南」内

http://www.yurakirari.com/yuranosato/tenpo/kunitachi.php

2013年2月21日木曜日

「綱島温泉・東京園」でさすらい風呂



 綱島街道を走っていると、突然、赤い煙突が見えてくる。黄色い壁のこの建物がウワサの綱島温泉・東京園だ。神奈川なのに東京とはこれいかに?……という感じもするが、千葉や埼玉でもよくあるパターンなので、目をつぶろう。
 近頃流行りのスーパー銭湯のような一見シャレた外観だが、なんと昭和21年創業という古い歴史があり、実際に中に入ると、露骨なまでに昭和ムードが漂う間のびした雰囲気。元々、綱島温泉は「東京の奥座敷」と呼ばれる温泉地で、かつては80軒もの宿泊施設があったそうだ。
 ただし、勘違いされては困るのだが、東京園は老舗温泉といった風情ある雰囲気ではない。どちらかというと、老人の保養施設のようなそっけない雰囲気なのだ。当然、老人率は高い。だけど、若者や子供が騒々しい温泉施設よりも、老人が多い方がなんとなく落ちつけるし、安心する。
 料金は大人900円とごく普通。しかし、日中1時間半以内の入浴時間だと400円払い戻されるというから良心的だ。さらに16時以降は大人450円の公衆浴場料金になるから、きっと近所の人が銭湯のように利用しているのだろう。
 入口を入ってまず最初に軽くめまいを覚えたのが、玄関脇の販売コーナーだ。近頃は健康食や地域の名物などを販売している温泉施設をよく見かけるが、東京園の販売コーナーはかなり独創的で、いなごの甘露煮などを売っているのだ。その他の食品もじいさんばあさんが好みそうなものばかり。売ろうという気概がみじんも感じられないのであった。
 さらに靴を入れるロッカーは昔の銭湯のような木製の鍵。しかも、その鍵が真っ二つに割れていた。直す気はないのだろうか……。なんだか朽ちていくのをそのままにしているような諸行無常を感じてしまった。
 中は無駄にだだっ広い。ずらりと座敷風の席が並び、湯上りの人がぼんやりくつろいでいる。つまみをつつきながらビールを飲んでいる人も多いようだ。そして館内に響き渡るムード歌謡。なんという、ゆるさ!
 温泉がまた独特。中央にコロセウムのような円形の風呂があり、みんな輪になるようにして温泉につかっている。あんまり見たことのないタイプである。しかも、昭和のポップアートのような黄色や赤や青の幾何学模様が壁に描かれ、天井には♂マークが……。ちなみに女湯の天井も男湯から見えるのだが、もちろん♀マークが描かれていた。明るい雰囲気にしようとしたのだと思うのだけれど、風情も何もなくて逆に愉快。ひと言で言えば、幼稚園児の落書きのようなシュールな世界観なのだ。
 湯はコーヒーのように濃い黒湯の天然温泉で、湯につかった途端、自分の身体も見えなくなるほど。湯はそれほど熱くなく、じわじわ効いてくる感じ。肌がすべすべになりそうな湯ざわりだ。
 あらためて周囲を見渡すと、やっぱり老人率が高い。気になったのは、途中で彫るのをやめてしまったような中途半端な入れ墨のおじさん。なぜかちらちらと目が合う(怖い感じではない)。その中途半端な入れ墨が申し訳なさそうで、この温泉にとても似合っているように感じた。
 4、5分つかって一度湯から出る。これが他の温泉施設なら、屋外の椅子にでも腰かけて涼むところなのだが、あいにく東京園にそんな気のきいた空間はない。普通の銭湯のような作りなので、ケロヨンと書かれたプラスチック製の桶の前で座って休むのがせいぜい。壁の幾何学模様を眺めたってしょうがないしな……。ちなみに風景と言えるかどうかは疑問だが、脱衣所がガラス張りになっていて、丸見えなのもここの特徴だ。しかし、ももひき姿のじいさんのストリップを眺めたって、ますますしょうがない。でも、このなんとも言えないゆるさが、東京園最大の魅力なのだ。
 涼む場所がないかわりに、水風呂がある。こちらも温泉を使った真っ黒な水風呂だ。ほてった身体にやんわり沁み込むようで心地よい。そして再び温泉にトライ。今度は「スーパーエステ」(なんの冗談か)と書かれた浴槽に入ることにしたのだが、湯が真っ黒なため、底が見えず、いきなり深くなっていて少々驚いた。という感じで3度ほど温泉と水風呂を繰り返し、それなりに満足。
 あとは休憩所でだらだら過ごすのみ。温泉好きは風呂以上に、湯上りのだらだら感を求めていると言っていいだろう。その意味では、東京園はだらだらできるスペースがかなり充実している。というか、すべてにおいてだらだらしていると言った方がいいかもしれない。脱力感だけはそこらの温泉に負けていない。
 あらためて見渡し、なんなんだこの空間は……と思う。まず、テラスに出て煙草を一服。庭が広くてなかなかの開放感だ。ただし、あんまり手入れした庭というのでもなく、ほったらかし感満載の庭。都会のエアポケットのような空間で、建物の向こうには車がビュンビュン走っている。ただし、車の音は聴こえてこない。なぜならずっとエコーがかかった演歌かムード歌謡が鳴り響いているからだ。
 奥にはドーム型の大広間があり、婆さんがうっとりカラオケを歌っていた。しかも曲は地元感たっぷりの「ブルーライト・ヨコハマ」。そして、驚いたことにじいさんとばあさんが社交ダンスを踊りはじめたのだ。しかも二組。身体を寄せ合いながら、のろのろとフロアで蠢いている。なんでも日曜になると社交ダンスが繰り広げられるとか。この光景を眺められただけでも感慨深いものがある。こういう文化、いずれは廃れていくんだろうなあ。
 持ち込み自由らしく、みんなで手料理を持参して宴会を開いているようだった。なんという自由な世界だろうか。いや、自由というよりカオスと言った方が相応しいかもしれない。みんな酒を呑んでご満悦の表情であった。
 食堂に行くと、魚の煮付けやホタテのソテーなど酒のつまみがやたらと充実。なんとなく、ラーメンが食べたくなり、頼んでみることにした。味は期待できないが、こういう場所のぬるいラーメンがオツな気がしたのだ。そして実際の味はというと、見たまんまの薄口しょうゆの中華そば。不味くもなければ美味くもない。何もかもが、そう……ゆるいのだ。
 2階があることに気づき、さっそく階段を上がってみることにした。2階にも大広間があり、カラオケセットが備え付けられていた。しかし、その広間にいたのは男3人のみ。その他は、小部屋になっていて、ソファーが置いてあるが誰一人いない。試しに座ってみると、いきなり老後を迎えたようないたたまれない気分になった。さらに奥に進むと、また大広間があった。こちらも人はまばらだ。寝るにはちょうどよさげな静けさであった。
 それにしても宴会場だけはやたらと充実しているな。最盛期にはけっこう人が入って盛り上がっていたのだろうか。温泉施設というよりは、宴会施設と言った方がいいくらいだ。温泉に入って、飲んで食べて、カラオケを歌うという豪華コースだったんだろうな。温泉というよりは、この異空間を楽しむのが東京園の醍醐味。時が止まったような奇妙な感覚が味わえる。
 再び階下に戻り、座敷席で横になっていると、吸い込まれるような眠気におそわれた。ラジウム温泉が効いてきたのだろうか。カラオケの演歌がだんだん遠ざかっていった。
 外に出て、すぐのところに鶴見川が流れている。釣り人仲間が集まってコンロで缶詰をあぶりながら缶ビールを飲んでいた。湯上りに、冬の風が心地いい。都会のぎすぎすした慌ただしさに疲れたら、ちょっと綱島温泉に足をのばしてみるのもいいかもしれない。何も考える必要のないまどろみがそこにある。

■綱島ラジウム温泉 東京園
横浜市港北区綱島1-8-11
http://www.tsunashima.com/shops/tokyoen/